アメリカフロリダで、バウチャー制度が違憲との裁判所の判断

 CNNのホームページによると、フロリダのバウチャー制度が違憲との判決を受けたとのことです。

http://www.cnn.com/2000/US/03/14/florida.vouchers/index.html

 バウチャー制度は、アメリカの新自由主義者たちが、主に主張していた制度で、学齢にある子どもの家庭に、バウチャー(一種の券)を与え、行きたい学校を選択して、選択した学校に対して、その券を提出する、そして、学校はその券を集めて、当局に提出すると、公費補助を受けられるというものです。

 学校選択のひとつの方法として、日本でも臨時教育審議会の中でそうとうに話題になりました。

 もっとも、バウチャー制度といっても、多様な形態があり、親や子どもの希望を最大限尊重しようというものから、単純に白人が黒人と一緒に学ぶことを回避するための、便利な手段を提供するというような、差別的なものまであるようです。

 フロリダのバウチャー制度は、その中でも非常にユニークで、公立学校の成績が全体として悪く、州から「教育に失敗した学校」という「認定」を受けると、希望する親に対して、年3389ドルの学費を支給され、私立学校に通うことが可能になるというものです。4年間に2度、「ランクF」をとると、認定校になるようです。

 教育関係者の中には、当然強く反対する声もあり、税金を宗教学校に支出するのは、憲法に違反するという理由です。現在アメリカでは、まだまだ一部ではありますが、公立高校での銃乱射事件が繰り返し起こっているために、ホームスクールに切り替えたりする動きがあり、既にホームスクーラーは200万人になると言われています。当然、資金的な余裕のある富裕な家庭では、私立学校に入れようとする動きもあります。そういう動きは、公立学校の低下を促進することになるでしょう。

 クリントンが自分の子どもたちを、ワシントンの公立高校に入れると公言していたにも拘わらず、結局私立高校にいれたことは、記憶に新しいところです。

 公立高校が、荒廃した状況になることは、全体としての教育を荒廃させることにならざるをえません。現代の公教育では、公立学校が主体であり、数も多いからです。したがって、バウチャー制度が、公立学校を低下させるという反対論は、それとして根拠があります。

 しかし、私立学校に通わせる家庭では、公立学校用の「教育説」に加えて、自らの子どものために高額な授業料を払わねばならないことは、それ自体として不平等と言わざるをえません。この点を平等にしようとすれば、オランダのように、公立学校と私立学校とで、学校の費用負担者を原則的に同じとする以外にはありません。オランダでは、公立と私立とでは、設置者が異なるだけで、費用負担の方式はまったく同じです。つまり、公立学校でも、私立学校でも、国家的基準を満たせば、公費が支出されるのです。基準を満たさなければ、公立学校なら廃止されますが、私立学校の場合、廃止するか、高額な授業料を親が承知すれば、とって運営することもできます。もちろん、親は、そうしたことを嫌って、転校することは自由です。(オランダの学校制度については、国際教育論のテキストを参照。)

 そのことは、また、教育の内容的な統一の問題と絡んできます。

 近代国家の原則として、国家は宗教と関わらないという世俗性原理がありますが、私立学校の費用を国家が負担すると、宗教と関わることになるという見解が強くあります。フロリダのバウチャー制度批判者もそうした立場にたっているわけです。

 しかし、フロリダの制度のもつ意味は、公立学校忌避というような人々の応援をしているに過ぎず、全体としての学校の水準を高める中で、親の選択意思を尊重するというものではないような気がします。

 

                     2000.3.15