予備校が大学の入試問題を作成?

 2000年3月10日の新聞各紙は、大手予備校の河合塾が、大学の入試問題を作成するビジネスを行うことを報じた。河合塾によると、以前から入試問題を作成してほしい旨の要請を、いくつかの大学から寄せられており、検討を重ねてきたが、決定後既に10を超える大学から、問い合わせが来ているという。
 各紙は、文部省は当惑気味であるという報告もしている。

 この問題は、日本の入試制度を考えれば、現れてもおかしくないことだと考えられる。実際、2,3年前に九州のある大学が、外部に入試問題作成を依頼して、それが公になって強い批判を浴びたことがある。当時はまだ「批判」を受けることだったのだが、現在は予備校側がビジネス提供する時代になったのである。

 入試制度は各国によって異なるが、日本の制度はいくつかの特質をもっている。

(1)入試を受け入れる上級学校が行うこと。
 ヨーロッパでは、ドイツやオランダのように送り出し側が卒業認定試験を行って、それがそのまま上級学校への進学条件になる国や、フォーラムのバカロレアのように、全国的な統一試験によって決まるなど、日本とは異なる例も少なくない。

(2)定員が決まっている。従って、入試は競争試験であること。
 送り出し側の学校が試験をする場合、あるいは、試験が資格試験的なものである場合、当然定員は厳密なものではない。アメリカの州立大学にしても、定員で切ることは少ない。

(3)私立の学校、とくに私立大学にとっては、入学試験は、受験料収入という財政的な意味が大きいこと。
 このことは、受験生をできる限り多く集めることを前提として、試験が行われ、問題の内容が、それによって強く規定されていることを意味している。つまり、ヨーロッパのような口頭試問や、記述式の試験は行えないのである。

 さて、こうした特徴の下に行われている大学の入試であるが、大学側が試験を行うのであるから、大学の教師が試験問題を作成する。しかし、大学の教師は、高校の授業をする専門家ではないから、当然、専門ではない問題を作成することになる。
 しかし、大学側が独自に、自分たちの求める学力を想定して問題を作成すれば、社会の大きな批判を浴びることになるので、高校の授業に即した問題を作成しなければならないと拘束がある。
 更に(3)によって、必然的にコンピューターで処理される問題でなければならないことが、問題作成上大きな制約になる。
 英語や国語は、題材が無数にあるし、また、数学なども、数値を変えれば、基本的に同じ問題であっても、学力を試すことはできる。
 しかし、社会や理科の知識問題は、同じ問題を出すことは避けねばならない一方、コンピューターで処理できる問題というと、語句の知識を問うことが中心となり、学習指導要領で決まった範囲から出題すれば、ネタ切れになってしまうのである。

 現在の大学は、多くが、学部別ではなく、大学全体を共通の日、それも複数の日を設定して入試を行うので、同じ科目の問題を担当者が5,6日分作成しなければならない。それを5年続ければ、30近い問題作成量になる。これでは、異なる問題作成が困難になるのは当然だろう。

 ここに今回のような予備校が問題を作成することを、大学の側でも求める原因がある。

 しかし、予備校もテキスト、模擬試験など多数の問題作成を行い、かつ、それを解説していくのであるから、予備校の講師が問題を作成すれば、似た傾向の問題が作成され、実質的に有用な解説が、予備校の授業でなされることは避けられないだろう。

 いずれにせよ、予備校が入試問題を大学に代わって作成することは、好ましいこととは思われない。

 ではどうしたらいいのだろうか。
 大学が受験料収入に頼った財政を維持していく限り、貧弱な問題を出し続けるか、予備校のような「プロ」に依頼するか、おそらくどちらかのやり方にならざるをえないだろう。しかし、今後受験者数は、坂を落ちるように減少していくので、欧米のAO入試のようなスタイルになっていけば、一方で受験料をあてにせず、他方、丁寧な試験を行うことができるようになるし、また、そうせざるをえないのではないかと考えられる。
 
                    2000.3.10