テレビのこと  2003.1.31

 オランダのテレビは他の国と比較しても、非常にユニークな仕組みになっていると言われています。オランダの社会的特質として、「柱社会」を紹介しましたが、かなり崩れつつあるとはいえ、学校と放送に最も色濃く残っているとされているからです。オランダの教育が独特であるように、オランダの放送もまた非常に独特なのです。
 ラジオはあまり聞かないので、テレビの紹介になりますが、基本的にはラジオも同じです。
 まず、オランダでは、国営放送と民放とふたつがあります。これはまったく異なる原理で運営されています。そして、国営放送は日本のNHKとはまったく違います。
 国営放送は、基本的に「場」であるだけで、実際に番組を作ったりはしません。番組を作りたい人たちは、「放送協会」を設立して、機関誌を販売し、その定期購読者の数によって、時間帯を割り当てられる仕組みになっています。放送協会は、たくさんあって、放映している番組のなかに常に表示されています。
 放送協会が設立されたのは、いくつかの山があるようで、ラジオ放送が開始された1,920年代、テレビができてきた50〜60年代、そして、80年代です。
 大きな協会は20年代に設立されたものが多いようです。
 そして、その多くは宗教的な色彩か政治的な色彩をもっています。まあ、放送を利用しようというようなことを、大規模にできるのは宗教団体か政治団体かということでしょう。多くはキリスト教ですが、イスラムや仏教の放送教会もあり、ちゃんとテレビ放送しています。先日仏教放送教会の番組を録画しましたので、帰国後授業で紹介するつもりです。
 これまで、資金はどうしているのかよく分からなかったのですが、基本的には税金が支出されるということです。
 つまり、義務教育学校とほとんど同じ論理で運用されているということになるでしょう。
 まず国家は内容に干渉せず、数の論理で割り当て、費用は出す、というわけです。
 肝心の番組内容ですが、この国営放送でやっている、放送協会系の番組は、宗教団体や政治団体が主だということでわかるように、極めてまじめで固い番組が多いと言って差し支えないと思います。
 先日紹介した刑務所の紹介番組はキリスト教系の放送教会の作成したドキュメントです。
 左翼系のvaraという協会の番組で、非常に面白いのは、「lager huis」という番組で、イギリスの下院をまねた部屋で、テーマをごとに激しい議論をするものです。ときどき若者シリーズがあり、高校生くらいの人たちがでるのですが、その議論の激しさは目を見張るものがあります。

 今でも国営放送は朝早くとか、午前中、また午後は放送中止になります。その時間は音楽とかラジオの音声がそのまま流れたりします。

 こうした国営放送に対して、10年前は1つだけだった民放がいまでは、たくさんあります。主なものは6つくらいですが、全部住んでいるアパートにはいっているわけではないので、全体像はよくわかりません。地域チャンネルもけっこうあるようです。
 民放は基本的にCMによる資金で、その放送局が番組を作るようですが、日本の民放のように各番組ごとにスポンサーがついて、資金を出すというような仕組みではないようです。そのためか、どうしても番組を作成する人的経済的資本が少ないようで、かなりの部分はアメリカなどのドラマ、映画を字幕で放送する時間帯が多くなっています。また、商品宣伝番組などです。そういう意味で、日本のフジテレビとか日本放送などよりは、スカパなどの衛星放送のチャンネルのイメージに近いと思います。
 
 視聴形態ですが、日本のようにアンテナを立てて無料で見る、というような形態はほとんどなく、ケーブルテレビか衛星テレビと契約するようです。私たちは契約しておらず、家主さんの留守中を借りているのですが、その人が契約したままになっているのを見ているだけなので、そうした契約形態についてはよくわかりません。ただ、10年前はまったくなかったパラボナアンテナがたくさんあるので、衛星系が強くなっているのでしょう。
 オランダの国営と民放はたぶん無料なのだと思いますが、それ以外ヨーロッパの各国のチャンネルなどが選択して入れられるようです。ビデオを購入したときに、その一覧があったのですが、だいたい60チャンネルくらいあります。基本がケーブルですが、衛星系だとたぶんもっとたくさんのチャンネルがあるはずです。日本でも比較的人気の(ケーブルや衛星系では)ディスカバリーチャンネルなども人気です。
 そうしてケーブルや衛星と基本契約を結び、有料チャンネルを追加してみているわけでしょう。

 オランダのテレビで日本と違うなあと、思うことはいくつかありますが、CMもそのひとつでしょう。
 オランダテレビのCMは多くが「ナンセンスギャグ」的な内容で、とにかく「笑い」を含んでいるものが多く、ばかばかしいものもたくさんありますが、まあ、こういう笑いを生活の中に取り入れているという感じです。オランダ人はアメリカ人ほどではないにしても、ジョークがとにかく好きです。汽車でアナウンスがあるのですが、私にはわかりませんが、かなりジョークをいうそうです。
 例えばこういうCMです。
 
 ある若い男が朝ベッドで目をさます。足元のテレビの上にコップがあってその水を飲みたいのだけど、面倒だから足でとろうとすると、コップが倒れて水がこぼれ、それがテレビにかかって、火がでる。火が出て火災報知機がなり、アパートが混乱するが、スプリンクラーが作動するのか、天井から水がシャワーのように落ちてくる。これはいいわいと寝たままの若者がシャンプーをかけて身体を洗い始める。外では火事騒ぎで人があたふたしているのだけど、若者はまったく気にせずせっせとあらっていると、いつのまにか若い女性が脇にいて身体を洗う手伝いをしてくれて、ご機嫌、というそんなCM。

 日本にはないオランダ的特質は、たとえばこうしたCMが終わって他のがはじまるのだけど、数分たってから、このもとの続きがある、というパターンで、この「つづき」があるというパターンは、たくさんあります。日本ではみたことがありません。

 ひとつ例をあげると、大学の卒業式らしい風景のCMです。
 エルガーの威風堂々のメロディーにのって、次々と青年たちが証書をもらっていきます。そのなかで、とびきり汚いかっこうをして、ポテトチップみたいなお菓子をたべている青年の番になって、そのままその青年は壇上にあがるので、教授たちはびっくりして見ています。その青年は若い女性の先生?の前にくると、そのお菓子を女性の口に差し出します。そして、いきなり強烈なキスをして、まわりはあっけにとられます。ここでいったん休止するのですが、別のCMがながれたあと、その続きがかえってきて、その青年と女性はいかにも好き合ったように一緒に歩いていく風景が流れるというものです。そして、みんな喝采する。
 どうもそのお菓子の宣伝らしいのですが、なんの宣伝なのか理解できないパターンのものもたくさんあります。日本でもそうですが。
 
 民放は娯楽的なものが多いのがまあ当然でしょうが、子どもたちのテレビ視聴時間がこの間かなり長くなったそうです。10年前は子どもは8時に寝るというのがごく当然という感じでしたが、最近は夜更かしも多くなったとか。確かに国営放送しかない時代には、子どもはテレビなど見たくもなかったでしょう。宗教的な番組や政治的な番組がほとんどなのですから。でも、今はアメリカ映画やアニメがたっぷりありますし、日本でも衛星系でたくさんある音楽番組がいくつかあります。オランダ人の背が高い理由は諸説あるようですが、ひとつは子どもが早く寝るというのがありました。でも、その理由そのものが崩れつつあるので、オランダ人の平均身長は今後さがっていくかも知れません。

 日本やドイツなどど比較すると、オランダはやはり経済規模が小さいので、いろいろな面でお金をかけない番組作りという感じがします。クイズなどがその典型でしょう。日本のテレビのクイズ番組というのは、本当に面白く、お金をたっぷりかけてあるので、見応えがありますが、こちらは、とにかく、問題を出す人と、答える人がいて、その話の掛け合いで成立しているだけです。ときどき映像がでますが、簡単なもので、日本のように、ひとつの質問のために、アフリカにいって映像をとってくる、などということは、まず見られません。でも、話はとても上手なので、オランダ人には面白いのでしょう。
 外国の映画、といってもほとんどはアメリカものですが、それも吹き替えはなく、みんな字幕です。唯一の吹き替えは、子ども用のアニメで、これもすべてではありません。10年前はアニメもみんな字幕でした。日本のアニメもかなり放送されています。

 ドイツの番組では字幕はほとんどなく、まず吹き替えになっています。ただ、さすがに日本のように、「二重放送」というのは、まずないようです。全部調べたわけではないので、絶対ではありませんが。吹き替えではなく、字幕なので、オランダ人の英語力が高いのだ、というのが、私のひとつの解釈です。
 日本でも人気の「アリーマイラブ」とか、「ER」なども、こちらで人気番組のひとつですが、アメリカのドラマはとにかくたくさん放映されていて、日本よりはずっとたくさん見ることができます。逆に奥にもののドラマはかなり弱体であるといえるでしょう。

 以前と同じように、日本とかなり違うのは、年少の「アイドル」という存在がいないことです。こちらの人気タレントはみんな成人です。ここはどうしてなのか、いまだによく分かりません。アメリカは日本と同じように年少のアイドルがいますから、やはりヨーロッパはすこし違うのでしょう。ヨーロッパの他の国の事情はまだよく分かりません。
 ただ、民放が増えて、コマーシャルで当然子どもがたくさん出てきますから、そうした中から子どものアイドルが出てくる可能性は、将来的にはあるのかも知れません。