今総選挙の真っ最中 2003.1.18

 今オランダでは選挙戦の真っ最中です。10年前の滞在では選挙に遭遇しなかったので、今回間近にヨーロッパの選挙をみる初めての機会となりました。この選挙は、いろいろな意味で特異な性格をもっていますので、尚更興味深く毎日見ています。もっとも、集会などには行っていないので、ほとんどが新聞やテレビで見ているということになりますが。

 何故今選挙をやっているかということをまず説明しましょう。
 昨年の5月に定例の総選挙が行われました。このときには、前年から出馬を宣言していたフォルテインといういわゆる「右翼」の政治家が、移民制限を訴えて人気を博していたのですが、投票直前に殺害されてしまったわけです。このことは日本でも大きく報道されました。同性愛のもつれだとか、いろいろな憶測があったようですが、とりあえず、今は政治的な意味での暗殺であったということになっているようです。ただし、真相はわかりません。
 それはさておき、殺害されたことが党としては有利に働き、今まで議席がなかった党が、いきなり26議席もとり、第二党になりました。ヨーロッパ全体のいわゆる右傾化とも一致した傾向と理解されていますが、とにかく、第二党の政党を無視して組閣もできないということで、キリスト教民主党と、国民党そして、フォルテイン党の3党という、今までにないような保守的な内閣ができたのです。それまでは労働党を中心とする、どちらかというと革新的な政府でしたから大きな転換となりました。
 さて、内閣はできたものの、まったく政治的に経験のない、かつ党首が死んでしまった政党が、内閣に大臣を何人も送り込んだのですから、うまく機能するのがおかしいくらいで、フォルテイン党は分裂をくりかえし、ふたつの政党はうんざりして、内閣総辞職してしまったのです。もう、フォルテイン党とは一緒にやりたくない、ということは、明確にしています。
 そして、今度の二十二日に投票ということで、ずっと選挙戦になっていました。内閣総辞職をしたのが、十月ですから、ずいぶんと投票までに時間があるなあ、というのが、最初に感じた相違のひとつです。

 こちらの選挙は、非常に単純な比例代表制のようです。詳しく読めばそれぞれの政党の名簿はわかるのでしょうが、メディアに登場するのは、ほとんどが党首(名簿一位の人)で、党首が政策についての激しい議論を展開しています。あとは、各政党がそれぞれ開く政治集会などが主なもので、街頭宣伝カーで連呼するという光景は、まったくありません。そういう意味では、非常に静かなものですが、政策中心に議論がされているので、やはり、「成熟」しているという感じがします。

 オランダの政党の主なものは、今内閣を形成している3つの政党の他に、昨年まで政権の中心にいた労働党、それから、より革新色の強い、緑の党、社会党、D66というような政党があります。キリスト教連合という政党もあるようですが、メディアの党首討論などにはほとんどでてきません。出してもらえないというところでしょう。

 いずれの政党の党首も非常に若く、労働党の党首など、39歳です。だいたい40代が中心です。まずは最大の話題は、フォルテイン党とはくまないとなると、これまでのようにキリスト教民主党と国民党では多数をとれないということが予想されており、たぶん、最大党となるであろうと予想されているキリスト教民主党が、労働党と組もうか、などと発言し、労働党も色気を出している(?)感じで、そこらの駆け引きが毎日メディアを賑わせています。
 また、ある予想では、労働党が第一党になるのではないか、ということも出され、俄然、39歳の首相が実現するのか、というような話にもなるわけですが、ポスという労働党の党首は、自分は第一党になっても、首相にはならない、などと言って、首相候補を近々公表するというようなことになっています。

 こうした政治的駆け引きとは別に、当然政策の議論が非常に盛んに行われています。
 細部はまだよくわからないのですが、争点はいくつかあります。

 まずは、最近落ち目の経済をどう活性化するのか、という問題があります。
 ここらは活性化のためにいくら資金をつぎ込むかというような議論で、あまりよくわかりません。
 次に社会の安全、移民の問題などです。
 これは複雑に絡んでいます。
 まずオランダはスウェーデンとならんで刑務所が快適であることが知られており、保守派の人たちはもっと刑も含めて厳しくすべきである、と主張しています。フォルテイン党は、オランダは犯罪者にとってもパラダイスとなっているとか、キリスト教民主党は、犯罪者たちはオランダにやってきて犯罪をする、刑務所が快適だからだ、というような調子です。
 そして移民の増大が犯罪の増大の原因であるという認識のもとに、オランダ社会に同化しない移民は、滞在許可を取り消そうというような提案もしています。これらに対しては、今の野党は大体は批判的です。
 非常に面白いなと思うのは、以前から刑務所が一人部屋になっているのですが、そこに二人入れるかどうかが、けっこう大きな政治的争点になっていたことです。オランダの刑務所というのは、すべてかどうかはわかりませんが、報道を見る限りでは、日本の貧しい学生諸君が入っている1DKよりはよほど快適にできているかも知れません。
 テレビなんかもちゃんとあるようです。
 社会復帰をさせるためには、社会の環境に近づけるべきであり、そうした中で社会に復帰したときに、ちゃんと生きて行けるようにするのだ、というような主張が背景にあるようです。
 日本のような「臭い飯」はもう嫌だ、という感情を起こさせて、再び犯罪を犯さないようにする、というのとは、まったく正反対の考えなのでしょう。
 最近の新聞に、労働党もついに刑務所のふたリ収容を認めたなどと報道されており、これは労働党が連立に参加するための「すり寄り」と見る向きもあります。

 教育問題は、メディア的には、イスラム学校をどうするか、というようなことがずっと騒がれてきたのですが、選挙政策としては、そうしたことはあまり前面にでておらず、むしろ教育費の増大などが争点となっています。とくに、最近ヨーロッパの中でオランダの教育水準は低いというような統計が公表されたようで、もっと予算をつけろというような主張を現在の野党はしています。