シンタニクラス祭 2002.12.8

 大分報告が途絶えてしまいました。デンマークに行ったりして、けっこう忙しかったのと、日本語を書いている時間がもったいない感じがして、滞っていた状況です。体調万全で快調にやっています。
 ただ、オランダ社会のあまりの変容に日々驚くことが多い、というのが、最近の正直な感想です。教育もずいぶんと変わりました。社会の変化もそれに大きく影響しているようです。

 ヘンゲローの事件については前に書きましたが、とにかくイスラム絡みの報道が連日続いており、オランダよりはとなりのベルギーでは、かなり社会的に騒然としているような報道が続いています。もっとも、そこにいないので実際には雰囲気がわかりませんが。
 昨日はオランダ特有の「シンタクラス」(日本流にいうと、サンタクロース)祭でした。通常12月24日と25日にクリスマスがあり、そこにサンタクロースがやってくるわけですが、オランダでは、12月5日にやってきて、他の国とは一味違う行事になっています。毎年スペインの港を、従者のツバルテ・ピッツとともに出帆し、アムステルダムに到着します。そして、5日には全国の学校にヒンタクラスが訪問して、お菓子を配るのです。その際、何人かの子どもを呼んで、膝にのせ、いろいろと質問をします。いい子にしているか、というようなことでしょう。

 ところが、今年だけなのか、あるいは最近の様子なのか、10年前とは違う感じがしたのは、やはりイスラム絡みです。シンタクラスというのは、もちろんキリスト教の行事であり、神の子イエスの誕生に絡んだことですから、イエスと一人の予言者としか認めていないイスラム教の受け入れるところではありません。したがって、純粋なイスラム学校では、5日にシンタクラス祭は祝わないわけです。で、問題は、イスラム教徒の多い公立学校でどうするか、ということです。報道によると、大体60−70%が祝うと新聞には書かれています。

 11月のラマダンが終わり、そのあとで、サウカフェスト(お菓子を配る)がやってきます。オランダらしいのは、できるだけキリスト教色を薄めて、モスクなどをシンタクラスが訪問し、サウカフェストとうまく融合するような形で子たちに接するような試みをしていることです。
 また、ある小学校では、かなりの時間をかけて、シンタクラスはどこにいる、というような調査をして、今年はスペインではなくトルコにいるという歌を作り、なんとか、イスラム教徒の間にも無理なくシンタクラスの行事を受け入れられるようにしようというような教育的試みをしているところもあります。そこは、アムステルダムの非常にイスラム教徒の多いところのようで、微妙な難しい問題であることがわかります。もちろん、子どもたちにとってのシンタクラスというのは、靴をおいておくとお菓子をくれる存在、というのが第一でしょうから、難しい宗教的な背景などは、あまり関係なく、ナーバスになるのは親たちでしょう。ですから、こうして育った子どもたちが親になっていけば大分変わっていくでしょうが、しばらくの間はこうした模索が続くのでしょう。

 隣のベルギーでは、イスラム教徒の政治団体があり、そのリーダーがテロの嫌疑で逮捕され、釈放された後、かなり大きな集会などがあって、画面で見る限りはあなり不穏な空気が漂っている感じがしました。オランダの新聞には、同じ団体をオランダにも作る計画があると報道されています。
 オランダとベルギーの違いは、ベルギーにはベルギーの教育体系の中に入っているイスラム学校が存在しないことで、そうした学校があるのはヨーロッパではオランダだけです。ですから、オランダ社会では、イスラム教徒が公的に見えやすいので、ある種の不安を起こしやすい面もあるのですが、イスラム教徒にとっては、ある種の満足感があると思えます。つまり、不安が政治的に表現されにくい面があるということです。ただ、学校があり、人口が多ければ、政党を作る構想が出てくることは明らかであり、そのときに、どちらに進むか、つまり、イスラム教徒も含めた体制が確立していくのか、それとも、不安要素になっているのか。これまでのオランダのやり方をみる限りは、前者に進む可能性が高いし、そのために社会的安定が壊されていく危険性は少ないとは思いますが。