オランダという社会(1) 2002.10.27

 私の授業をとった人にはそれなりにオランダという国がなじみがあるかも知れませんが、まだまだ一般的には知られていないので、少しずつ簡単な解説をしていきます。異文化理解論や国際教育論のテキストを読んでもらえば、(また異文化理解論には、講義の記録もあります。)そこに書いてあることが大部分ですが、こちらに来ているので、新しいこともできるだけ加味していきたいと思います。

 まず最初にオランダを語るときに、必ず出てくる言葉は「地球は神が作ったが、オランダを作ったのはオランダ人だ」というものです。これは文字通り、オランダという国が、オランダ人によって、国土を作られたことを意味しています。他のすべての国は、国土があるところに人間が住み着いて、そこに社会を形成していったわけですが、オランダだけは、池や湖や海岸を埋め立てて、大地にして、そこに人が住んで形成された国なのです。したがって、他の国とは異なる形成があり、それゆえに、オランダ社会は、他の国と様々な点で異なっており、極めてユニークな社会だと言えましょう。私が興味をそそられるのも、そういうユニークさです。
 オランダと言えば、「風車、運河、チューリップ」という3点セットがあるのですが、チューリップは重要な輸出産業であり、日本でも大量に輸入されているので、なじみが深いでしょう。しかし、オランダ社会を考える上では、なんとていっても、風車と運河が重要です。もっとも、運河は現在は実用的には用いられておらず、象徴的な意味しかありませんが。

 オランダはオランダ人が作ったといいましたが、主に湖等を埋めたてて作ったために、オランダの40%は海面より低いところにあると言われています。その40%に人口の多数が住んでいます。つまり、大都市はこの40%にほとんどが入っているわけです。埋め立てて作った土地であるために、ほとんどが平であって、山はまったくありません。さすがにドイツ国境付近は高くなっていますが、それでも最高が海抜200メートルなのです。オランダの大部分はまったく平であると考えていいでしょう。そして、さすがに国家的事業で干拓した土地ですから、土地に対する規制は少なくともこれまでは、非常に強いものがありました。勝手に家を立てたりはできないのです。
 そして、そうした規制のためか、とにかく人間が住むのに快適なように地域が作られているといってよいでしょう。したがって、オランダはどこに行っても同じ光景ばかりが続いています。まあ、1週間いたら、風景については見飽きるようになるでしょう。だいたい、要素として、市街地、郊外の住宅地、ポルダー、花畑とグリーンハウスが、大きな要素で、その間に、森林や公園、スポーツ施設が非常に豊かにあります。そして、道路の数よりも多いと思われる大小の運河がそこら中にあります。大きな運河には、けっこう大きな船が行き来して、まだまだ水上輸送が大活躍しています。運河は川ではないので、流れておらず、基本的に水門による水準管理がなされています。
 広いポルダーでのんびりと草を食む牛・羊・馬をみて、運河をボートで楽しむたくさんの人々の様子をみたら、多くの人は、こういうところで生活したいと思うのではないでしょうか。
 ここにあげた要素は、日本だって同じではないか、という意見もあるかと思いますが、まあ、山は確実にないわけです。そして、オランダの場合、それぞれの要素自体が極めてよく似ているのです。
 また、都市は機能的に分化しており、どれも非常に小さな規模しかありません。最大都市のアムステルダムだって、端から端まで、30分もあれば市街地を横断できるでしょう。
 アムステルダムやロッテルダムは商業都市、ハーグは政治都市、というように、都市の特色があり、東京のようになんでも中心ということがありません。この都市分業は、ヨーロッパの中でも非常に顕著な方だと思います。
 
 私はオランダを「人工国家」と特色つけていますが、人工的に作った国であるために、社会そのものを非常に合理的というか、思ったように作り替えていくという点で際立った特色をもった社会であると思っています。安楽死を最初に合法化したことでわかるように、他の国ではやらないことをいち早く実行するというようなことが、オランダにはたくさんあります。そうしたことは、またおいおい説明していくことにしましょう。

 もうひとつ、オランダを考える上で原点となるのは、宗教的自由を求めて独立戦争を行い(対スペイン)その結果独立した国家だということです。つまり、自由を尊重する点で非常に際立っているのです。この点についても、具体的に今後説明していきますが、ただ、そういう点でみると、オランダは今岐路にたっているようにも思います。 
 というのは、昨年の9月11日の事件後、オランダでは、イスラム教徒に対する暴力事件が多発したそうです。以前はそうした暴力はドイツが非常に目立っていたし、それについてのオランダの批判は強いものがありましたが、昨年のテロのときには、ドイツでは逆にイスラムへの暴力はほとんど見られなかったのに対して、オランダで目立ったというのは、どういうことなのか、注意して調べています。

 ぜは1回目はここらで。質問を遠慮なく書いてください。