麻薬と移民の問題  2002.10.25

 ヨーロッパにくると多分どこの国でもそうだと思いますが、移民の問題をひしひしと感じます。政治がどんどんいわゆるニューライトの側の移行しているのも、移民問題の深刻さの現れです。そして、オランダの場合、麻薬の問題は、観光客の問題というよりは、やはり、移民問題との関連を抜きにできないところが、深刻なところです。
 非常に問題を単純化すれば、移民の子どもの経済的・教育的な不利からの不振 → 学校からの脱落 → 麻薬密売人への転落 というパターンです。これが無視できないほど存在しているので、移民と麻薬は絡んでいると見ざるをえないのです。
 そして、麻薬についても国論はけっして一致しているわけではないことは、前回書きましたが、移民政策についても、かなり大きな意見の相違があるように思います。
 昨日、キリスト教系の政党の移民の関する文書を読んでいたのですが、なかなか面白かったので、ごく簡単に要約しておきます。
 移民者が祖国の文化と移民した国の文化とをどう扱いかについては、4つの型があるというのです。ひとつは、母国の文化を捨てて、新しい社会の文化を受け入れる、これがもっとも適応的なパターンで、「同化」と名付けています。そして、母国の文化を維持しながら、新しい社会の文化も受け入れる、これを「統合」と名付けています。そして、母国の文化を維持し、新しい文化を拒否するのを、「分離」、母国の文化も新しい文化も受け入れないのを「マージナル化」といっています。
 個人の事例というと、4つのパターンはすべてあるわけですが、受け入れ側の政策としては、前の2つしかありません。
 ちなみに、3番目の事例で、オランダではありませんが、スウェーデンで、非常にショッキングな事件が昨年おきたことが、たしかニューヨークタイムスかなんかに出ていました。
 トルコからの移民で、父親はかたくなにスウェーデン文化を拒否し、トルコ文化を守り続けようとした。しかし、娘はスウェーデンに同化し、スウェーデン人の恋人もでき、幸せそうに見えたが、父親との文化姿勢の矛盾に悩み、それをテレビで率直に語ったところ、父親はスウェーデン文化に掬われてしまっただけではなく、一家の恥をさらしたと憤って、家族の前で娘を射殺してしまったという事件です。
 この事件ほど、移民家族の同化の難しさを示した事件も少ないでしょう。

 さて、オランダのこの10年近い政策は、労働党を中心として回ってきました。彼らは、移民政策において、基本的に「統合」政策だったが、それが間違いであるというのが、労働党と異なるスタンスのキリスト教民主党のこのパンフの趣旨なわけです。そもそも、しかし、母国の文化を維持し、新しい社会の文化も受け入れるというのは、矛盾なのだ、不可能であり、かえって事態を困難にしてしまうもとだ、というわけです。というのは、結局のところ、母国の文化を維持することを奨励すれば、母国文化を背負ってきた一世は、母国文化に固執するけれども、子どもたちは学校にいくから、新しい文化を摂取し、そこに家庭内の矛盾がでてくる。しかも、親は母国文化が強いから、子どもが学校で受ける教育面で不利にならざるをえないので、彼らは学校からの逸脱を起こしやすく、麻薬犯罪者に堕する危険性が高いという批判をしています。
 ですから、彼らの基本的な政策は、「同化」であり、とくに、移民については、オランダ語の修得を義務つける、オランダ語を修得していないものの永住は認めない、という政策になっていくのだと思います。もっとも、このパンフにはそこまで書いておらず、たぶんそれを率直、大胆に語って、アピールしたのが、右派政党ということになるでしょう。右派政党も、単に移民を受け入れるな、といっているのではなく、移民を受け入れるならば、言葉がちゃんと話せて、社会に適用できるようになってからにせよ、そういうことを義務つけよ、というのが主な主張のようです。そういう意味で、非常に受け入れられやすいものがあります。ここらは、まだまだ調べる必要があります。

 以上の文献は、Prof. Dr. L. Eldering "Integratie van allochtonen: een kwestie van lange termijn"