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(19) 92/11/28 04:46        コメント数:2

オランダ通信4
 今回は教育とはあまり関係のない話題にします。といっても、教育は社会現象のあらゆる側面とつながっているので、あながち無関係ということはないと思います。だからここに書くというのではなく、オランダにいて、電話代もかさむので、19番に限定している関係上、話題が少々違っても、ここに書かせてもらいますので、ご了承ください。
 現在オランダでは、ドイツでのトルコ人殺害に関する話題で、ジャ−ナリズムは持ちきりです。この問題は、オランダでも実に深刻に受け取られているのです。
 日本ではどうでしょうか。
 11月一杯、私の日本の家に、オランダのライデン大学の学生が、日本の教育調査のために滞在しているのですが、日本のニュ−スでヨ−ロッパのことがあまりにも話題にならないので、驚いていました。特にユ−ゴの情勢はこちらでは毎日必ず詳細にニュ−スで触れられるのですが、日本ではほとんど触れられない、ということですが、本当でしょうか。少々大げさに言えば、ユ−ゴの混乱は第1次世界大戦の勃発を思い出させ、今回のネオナチのトルコ人殺害は第2次大戦の勃発を思い出させるのだと思います。
 日本と異なって、ヨ−ロッパはとにかく「平和な毎日」という状況ではなく、近くにユ−ゴ・アラブという紛争を抱え、内には移民に対する民族主義からの排斥という火種を抱えているのです。これは日本には関係ないのではなく、ヨ−ロッパで戦争になれば、当然日本も無関係ではいられません。
 
 事件は承知と思いますが、11月22日の日曜日に、北ドイツのメルンというところで、ネオナチグル−プがトルコ系住民の女性と子ども2人の計3人を殺害したことです。被害者がいわゆる女子どもであったこと、この子どもはドイツで生まれた、移民ではなく「ドイツ人」であること、などが重なって、非常に大きな反響を呼んだわけです。しかし、注意しなければならないのは、こうした殺害は実は今年だけで、15人に及んでおり、内務省当局の発表によると、1800件の暴力行為があったという事実です。
 
 今私としては、最大限の時間をさいて新聞を読んでいるところで、それらはまた近日中に報告しますが、今回はいろいろな意味で、これまでの暴力・殺害行為とは違う形で進展しています。
 ボン政府は重い腰を挙げて、犯人の摘発に乗り出しました。
 少なくともオランダの新聞では、これまでボン政府は、ネオナチの暴力行為に対して、きちんとした対処をしてこなかったという批判的な意見をもっています。もっとも、それもそれぞれの政治的立場によってそのニュアンスは違うのですが、ドイツ政府がきちんと対処しているという支持的立場を表明している新聞は、あまり見当たりません。
 犯人とされる少年が逮捕され、いくつかの右翼的団体が禁止されました。
 このことに関しては、既に相当な意見の割れが生じていると言えます。

 ドイツでは、東ドイツの統合という事態が、非常に困難を生んでいる中での、こうした一連の動きなので、問題はきわめて複雑です。(そこで勉強不足なので、次回にこの点はまわします。)

 オランダでは、何故大きな意味をもつのでしょうか。
 まずオランダでは、常にドイツは大きな政治的意味をもっているという点です。ヒトラ−に侵略された記憶は、とにかく明瞭にあるわけです。日本人はあまり意識しないのですが、ドイツの代表的な川であるライン川は、ドイツからオランダに流れ込んでロッテルダムから海に出るのです。つまり、オランダはそれだけ地理的にドイツに近い上に、ドイツの経済的影響を受けやすい位置にあるということです。
 次に、オランダでもトルコ人がとても多いということです。オランダではドイツほどに経済的な困難を抱えていませんが、当然おきる資本主義的不況において、こうした移民への迫害が起きないか、という問題を意識せざるをえないわけです。そうした意識は、当然もつことが健全で、日本ではどうなのでしょうか。
 オランダは移民労働者を、もっともスム−ズに社会に受け入れた国と言われています。この点も、私がオランダ留学を考えた理由の一つなのですが、したがって、めだった移民労働者への差別は、あまりありません。もちろん社会の中で不満がないということはないのですが、社会的不満はもっと白人社会の中にもあるので、当面移民労働者がやりだまにあがることはあまりないようです。(しかし、先日のイスラエルの飛行機事故は、移民労働者がやはり、特殊社会を形成していることを、浮き彫りにしました。)

 オランダでは英語が非常によく通じるのですが、しかし、オランダに生活するためには、やはりオランダ語が必要です。特に、私のような経済的に発達した国からやって来て、一時的にオランダ生活をする者は、英語で済ませることは可能ですが、トルコ人やインドネシアからやって来て、オランダに根ざして生活しようとする者にとっては、絶対にオランダ語を習得する必要があります。しかし、彼らに対して、民衆大学がオランダ語講座を開設して、オランダ語をスム−ズに習得するのを援助しています。ライデンでも食料品店を営む移民労働者がたくさんいますが、皆オランダ語を話します。そして、白人であるオランダ人も、自然にそうした店を利用しています。

 しかし、今は平和だから、こうなので、一端不況になり、また移民労働者がもっと多数になって失業者が増えれば、移民労働者に対する迫害が始まるのだろうか、という危惧を、オランダのジャ−ナリズムは論じているわけです。
 
 今日の昼間にラジオをつけると、この問題に関して、座談会をやっていました。途中から聞いたので、全貌はわかりませんが、ほとんど、オランダ社会は、ドイツとは文化が異なるし、また文化的背景も違うので、移民労働者抑圧という事態は起きない、といとも簡単に否定していたような感じです。(現在の私のオランダ語能力はとても低いので、あまりあてにしないでください。)

 文化そして、文化的背景とは何でしょうか。
 これも現在のところでは、説得的論議はできませんが、オランダに生活していると、アジアやアフリカの文化が、ごく自然に溶け込んでいるような雰囲気があるのです。ドイツにはまだ行ってないので、比較はできませんが、やはりオランダが海洋国家として発展し、世界中の文化に触れながら、そして、それらを尊重しながらきた、他の植民地帝国と違って、オランダは商業中心の海洋国家だったので、自国の文化を不躾に押しつけることは、比較的(あくまで比較的)少なかったようです。
 私の住んでいる家は、アンティ−クな趣味なのですが、ここにもアジア文化の要素が取り入れられています。ドイツは世界に冠たる国家だったことはないにも係わらず、「世界に冠たるドイツ文化」という言葉を、よく言ってきたのですが、オランダは確かに世界に冠たる国家だったことが、短いながらあるのに、世界に冠たるオランダ文化などという表現はないようです。そして、オランダ文化は決して低いものではなく、世界をリ−ドしたこともあるわけです。
 それから、オランダはスペインから独立した、という自由尊重の気風があること、そして、第三に、オランダは国家を自分たちで創造してきた、という自負があるので、国家的困難は、常に創造的に解決しうると考えている節があります。(オランダ人の好きな言葉に、神は世界を創造したが、オランダはオランダ人が創造した、というのがあります。オランダは国土の40%を埋め立てて、つまりオランダ人が造ったのです)

 こうした背景(これは私の意見なので、座談会の人がこうした背景を考えていたかはわかりませんが)を基礎にして、本当に移民労働者の排撃が起きないとしたら、やはり今後の日本の状況を考える上でも、とても参考になると思われます。