デンマークに来て 2003.4.20

大分長い間休みにしてしまいましたが、この間にデンマークに移動しました。当初の予定ではドイツが先だったのですが、ドイツを後にして、デンマークにやってきたわけです。デンマークでは、思い切って民衆学校に入ることにして、今「学生」として学んでいます。学生といっても、世界中から集まり、成人学校ですから、国籍も年齢もさまざまです。
 デンマークではこの民衆学校がひとつの研究テーマでしたので、実際に体験するのが一番ということもありまた。
 全寮制の学校で、三度の食事付きなので、勉強に専念することができます。
 オランダ時代と違って、一般市民と同じ生活をしていないので、まだデンマークの様子がいまいちピンと来ない状況ではあります。しかし、前にも書いたように、オランダとはかなり違った感じのする国です。
 学校のことはあとにして、デンマークについて気がついたことを書いておきます。
 場所はデンマークの東北の果てにあるヘルジンガー(デンマーク語だとエルシノーアということになります。デンマークの地名はデンマーク語と英語がまったく異なる印象を与えることが多く、首都は通常日本ではコペンハーゲンという英語名でいっていますが、デンマークではクブンハーウンといいます。つづりも違います。)で、ここはハムレットがいたとされる城で有名で、いまでもその城が観光の名所のひとつになっています。本当にハムレットがいたのかどうかは知りませんが、とにかくデンマーク王子ということになっているので、まあいいのでしょう。デンマークは大きな半島とふたつの大きな島が主な陸地で小さな島がたくさんあります。首都のコペンハーゲンは東の果てにあり、首都が一番端にあるというのは、かなり珍しいのではないでしょうか。昔からスウェーデンとの関係が深い国ですから、スウェーデンに近いということで、ここが首都になったそうです。
 ヘルジンガーは更に北にありますが、スウェーデンとの距離はもっとずっと近く、海岸にたつと本当に目の前にスウェーデンが見えます。はるか向こうなどというのではなく、向こうのビルディングがよく見えるのです。コペンハーゲンとスウェーデンは高速道路でつながっており、海には非常に大がかりな橋がかけられており、車のままで行くことができます。先日車でスウェーデンに行ってきました。
 ヘルジンガーではフェリーで行くのですが、これが実に頻繁にでており、通勤電車なみの頻度です。
 そういう港であるにも関わらず、実に水がきれいで、晴れた日などは真っ青に見えます。

 オランダからデンマークに移ると、前にも書いたように、丘があって、坂が多いことに気づきますが、物価が高いことに驚かされます。
 こちらの学校に来たときに、オリエンテーションの際に校長が、「デンマークの物価は高い、日本を除いて」というので、後で訂正しておきました。確かに日本の物価は以前は高かったが、今は競争が激化して、物価はどんどん下がっており、むしろデンマークよりも安い感じがする、と。
 EU内では農産物などは分業になっているわけですが、デンマークはどうしても産地から遠いので、不利な面があるのでしょうが、一番の物価高の原因は消費税の高さにあるように思います。なんといっても25%の消費税は物価に直接影響します。1,000円のものが、日本ならば1050円ですが、デンマークでは1250円となってしまいます。また、オランダなどでは食料品は6%の消費税というように、例外的になっているのですが、デンマークではそうした措置はないようで、とにかく高い感じがします。もっともすべてに高いわけではなく、安いものもあり、その代表はビールなどのアルコール類です。
 だいたい寒い国ではどこでもアルコール消費量が多いわけで、ソ連時代のゴルバチョフがアルコールの消費量を抑えようとして、規制法案を作成したのですが、うまくいかなかったという歴史があります。
 ところが、北欧諸国も同じような改革に取り組んで、スウェーデンやノルウェーなどがそれに成功したのに、デンマークではそれに失敗し、今でもアルコール規制が強化されずにいます。どういう規制なのかは詳細はわからないのですが、基本的には高い税金をかけるとか、売る時間等の規制があるのでしょう。
 スウェーデンに行くと確かに酒屋さんがほとんど見られません。ところが、ここヘルジンガーでは、酒屋さんだらけといってよく、オランダでは靴屋さんの多さに驚いたのですが、こちらでは酒屋さんの多さに驚きます。
 それだけではありません。ワインなどはまとめ買いをするのが、普通のようで、6本だといくらというような割引価格がついています。もちろん、ビールは大きなケースごと買うのが普通。それだけではありません。ここヘルジンガーは上に書いたように、スウェーデンの鼻の先なので、規制されてしまったスウェーデン人たちが、大量にワインやビールを買うためにやってくるのです。土曜日のフェリーなどは、そうしたアルコール大量購入のスウェーデン人で一杯です。デンマーク人というと、昼間からアルコールを飲み、職場でもさすがに問題となっているようです。
 このアルコール問題でもわかるように、デンマーク人というのは、基本的に変化を好まない性格のようで、社会民主主義政党が比較的強いところではあっても、それがむしろ保守的な機能を果たしているようにも見えます。

 デンマークに来る前に、強い印象をもって読んだ本の中に、アメリカのペンシルバニア大学の調査について書かれたものがありました。それは、生活満足度調査で、ほとんど毎年デンマークがトップだというものです。実際に生活水準が高いかどうかを問題にするのではなく、満足しているかどうかを問題にしている調査です。もちろん、生活水準が低いのに、満足度が高いことはあまり考えられませんから、満足度が高いことは、生活水準そのものが高いことを予想させるわけですが、デンマークにきて、あまり実感が沸かないという印象をもっていたので、何人かのデンマーク人にも聞いてみました。まだはっきりしませんが、ある面では納得できるとともに、あまり納得できないなあ、なんとなく自己満足という感じがしないでもない、と感じる面もあります。
 納得できるという面は、住宅面が非常に恵まれていることです。
 まず感覚的に理解してもらうために、オランダと日本を比較してみると、オランダと日本は人口密度が比較的似た数字になっています。ところが、オランダはほとんどが利用可能な国土であるのに対して、日本は国土の3割しか住めないわけなので、日本が実質的には人口密度はオランダの3倍という感じになります。オランダとデンマークは面積が似たようなものですが、人口はデンマークがオランダの3分の1です。デンマークも非常に平坦な土地で山がないので、すべて利用可能な土地であると考えてよいでしょう。肥沃な土壌であるとは言えませんが、利用可能であることは事実です。そうすると、デンマークは日本の9分の1の人口密度しかないことになります。小さい国ではあっても、どれだけゆったりした感じになるか、分かるでしょう。
 そういうところに家が建っているのですから、日本のように、密集した感じで家がたっていることはほとんどありません。しかも日本と違って、大きな家を建てる方が税金上有利なので、ローンを借りて大きな家を建てるそうです。日本では、一定の大きさを超えると、税金上の得点がなくなるので、どうしても小さな家になってしまいがちなのです。(日本で小さな家が多いのは、決して土地がないからばかりではありません。)たしかに、デンマークの家は大きな家が多く、また、オランダのように、集合住宅中心ではないので、住宅環境は日本に比較して格段にいいように思います。
 住宅環境は生活満足度に大きく影響しますから、ここでデンマーク人の満足度が高い理由のひとつが納得できます。
 それに似ているのですが、デンマークでは、自治体は非常に小さいまとまりになっています。これは、日本などと根本的に違うところで、日本では財政的な効率性から考えて、どんどん大きな市になっていますが、デンマークでは生活に便利なサイズを研究し、それが4、5万の住民数がもっとも生活しやすいという結論になって、だいたいその水準でひとつの自治体が作られています。日本だと100万都市になったといって、喜んでいるような状況ですが、そんなのはデンマーク人からすると馬鹿げているということになるでしょう。
 つまり、生活しやすいかどうかで、自治体のサイズを決めていくという発想をみれば、生活面のさまざまな環境整備がどうなっているか、想像はつくでしょう。たしかに、税金は高いけれども、それが生活の向上に使われているという実感があるようなのです。
 ただ、物価が高いとか、そういうことはやはり、満足度にどう影響しているのか、今後もう少し丁寧に観察してみたいと思っています。