臨床教育学コメント2018.7.19
Q 他人の人権を踏みにじっておきながら、守る理由はない。一定期間剥奪してもよいのではないか。
A 罰を受けて、刑務所に収監されることは、人権を一定期間剥奪されることです。だから、そのことは実現しています。問題は、出所したときに、再び罪を犯して、社会への脅威とならないようにするために、どうしたらいいのかということなのです。
Q 日本はなぜ性犯罪者へのケアや指導が徹底していないのか。
A 犯罪者は、罪を償わせる(=同じような苦しみを自ら受ける)、懲らしめるという意識が、国民の中に強いからといえるのではないでしょうか。懲らしめたのだから、刑期をつとめれば、許してやろうということでもあります。しかし、刑務所のなかでますます悪くなることもありうるし、また、反省していても、復帰後社会に適応できない人も少なくないわけで、そのためには、ケアや指導が、性犯罪者に限らず必要です。
性犯罪者は、再犯性が高いといわれておりまた、自身のコントロールが特に重要で、ケアや教育の必要性が高いといえます。なぜ進んでいないのかは、おそらく、まだまだその面での研究が遅れていること、更にそのために実施が進まないために、効果に対する確信が生まれにくいこと、そうした結果として、研究や実践のための予算が少ないことなどがあると考えられます。臨床心理学科の学生諸君は、そうしたことを進めるために努力してほしいと思います。
Q メーガン法の対象が小さい子どものような感じを受けたが大人の場合はどうなのか。
A 性犯罪はすべて対象です。
Q 性犯罪で逮捕される人はどのくらいいるのか。
A 2016年の統計では、
罪名 認知件数 検挙件数 検挙率
殺人 933 938 100.5%
強姦 2426 1972 78.9%
強制わいせつ 6755 4129 61.1%
のようになっています。ただし、認知件数なので、届けていないものが多数あると考えられます。
Q 日本でもメーガン法を必要とするような事件があるのに、何故日本では適用されていないのか。
A 奈良での事件で、世論的には盛り上がりましたが、警察庁が日本では不要であり、警察がデータを管理していることで対応できると政策決定し、それ以後、求める声が沈静しました。警察が不要と結論をだしたことが大きいと思いますが、更に、実施するためには、相当多方面の検討が必要となるのも理由のひとつでしょう。
Q 地元では、挨拶を日常的にし、近所の人に知ってもらうことで、犯罪から守られるという感じだったが、越谷にきて、挨拶が普通ではないことに気付いた。挨拶が犯罪のターゲットになるかもしれないと思ったが。
A 地域の特性、特に農村か都会かによって、大きく違うように思われます。私は、都会育ちで、農村に住んだことがないので、農村の雰囲気は実感としてわかりませんが、都会では、とにかく、「見知らぬ人とは関わりをもたないように、知らない人から話しかけられたら、すぐに逃げるように」という指導を、親は子どもにすることが多いはずです。幼児性犯罪者は、子どもににこやかに挨拶しながら話しかけるので、挨拶は、知っている人にはするけれども、それ以外の挨拶は、警戒対象ということになりがちです。
Q 日本では厳罰主義的傾向があるのに、なぜ性犯罪者へのGPS監視に踏み切れないのか。
A 日本は厳罰主義というのは、必ずしも妥当ではないでしょう。保護主義的な側面もあるし、厳罰主義が妥当であるとも言い切れません。性犯罪者に対する再犯防止策は、決して、メーガン法やGPSだけではありません。アメリカでも、性犯罪者村とか、カナダにおいては、近所のボランティアが友人となって、様々な援助を行うことなどの方法もあり、特に後者は、再犯率が低いというデータもあるようです。
また、GPSをつけた場合でも、外してしまうとか、あるいはつけたまま性犯罪をしてしまうという例も報告されています。しかし、特に韓国では、GPS方式の導入後、性犯罪者の再犯率は劇的に低下したともいわれており、日本でも、宮城県で、条約での導入が検討されていたといわれています。(震災で取りやめ状態になっている)
法律での導入をするためには、かなりの手順が必要となるはずです。
どのような犯罪者に装着するのか。
全員なのか、審査するのか。
禁止区域をどのように設定するのか。
監視をどのようにするのか。
違反したことへの対応をどのようにするのか。
装着装置をみて、一般人が装着者に危害を加えることをどのように防ぐのか。また実際に危害があった場合、加害者をどのように罰するのか。通常法なのか、特別の罰をつくるのか。
その他いろいろと検討事項があり、それほど単純ではないように思います。