国際教育論 第5回コメント2018.5.7

Q 中国の都市の学校で電子黒板を使用しているのをみたが、その反応として、日本よりも公費をたくさん投入しているというのがあったが、日本の教育への公費はどの程度投入されているのか。

 

A OECDの統計を示します。日本は、GDPのなかでの公的教育費の割合が、非常に少ない国としての位置が確立しているといってよいでしょう。

[内訳] - 教育費の対GDP比率(公的負担分)

単位 : %    出典:OECD    データ更新日:20171025

順位 国名 2014年 注

1 コスタリカ 6.36 1

2 デンマーク 6.29  

3 ノルウェー 6.12  

4 南アフリカ 5.96 2

5 アイスランド 5.67  

6 フィンランド 5.64  

7 ベルギー 5.56  

8 スウェーデン 5.20  

9 ブラジル 4.92  

10 ポルトガル 4.89  

11 アルゼンチン 4.88  

12 イギリス 4.77  

13 フランス 4.75  

14 ニュージーランド 4.74  

15 イスラエル 4.72  

16 スイス 4.70  

17 オーストリア 4.69  

18 エストニア 4.68  

19 韓国 4.55  

20 カナダ 4.52  

21 オランダ 4.51  

22 ラトビア 4.37  

23 メキシコ 4.37  

24 アイルランド 4.36  

25 ポーランド 4.28  

26 米国 4.17  

27 スロベニア 4.15  

28 コロンビア 3.94  

29 オーストラリア 3.92  

30 トルコ 3.88  

31 リトアニア 3.79  

32 ドイツ 3.73  

33 イタリア 3.55  

34 スペイン 3.54  

35 ルクセンブルク 3.49  

36 スロバキア 3.43  

37 チリ 3.40  

38 チェコ 3.39  

39 ハンガリー 3.37  

40 日本 3.22  

41 ロシア 3.18 1

42 インドネシア 3.00  

999 世界計 4.43 5

 

Q 日本ではバウチャー制度への議論はないのか。

A バウチャー制度の議論が、学校選択の議論を意味するならば、1080年代の臨時教育審議会の議論から始まり、90年代末ごろに品川区が選択制度を導入して以来、しばらくの間は、議論がけっこうさかんに行われました。しかし、日本では、文部科学省も日教組などの教員組合も、概して学校選択制度ニハ反対だったので、それほど普及していません。

 

Q 北欧は貧しいの高い税金をとっているから、ますます貧しくなののてはないか。

A 北欧は、扱うときに詳しく説明しますが、国際的にみて最も豊かな国であると、確実にいうことができます。経済的な競争力も非常に高い位置にありますが、幸福度調査でも、常に上位を示しています。

 

Q アメリカで創造説を教えている学校はどのくらいあるのか。

A 現在、生物の時間に創造説を教えている学校は存在しないはずです。また、創造説の改定バージョンともいうべき知的計画説については、進化論ではなく、知的計画説を教えているところもないはずです。また、その推進者もそれを直接目指しているというより、併用に持ち込むことを意図していると言われており、併用の地域は、多少あると思いますが、正確にはわかりません。

 

Q 理科教育に力をいれるのに、なぜ「国防」という名前がついているのか。

A スプートニクショックは、何よりも、国防上の危機と考えられたからです。人工衛星というのは、何よりも、軍事偵察の道具なのであって、相手だけが人工衛星を飛ばしているとしたら、相手は自分たちの国の状況を偵察できるけれども、自分たちは相手のことを知る手段がないということを意味します。現在北朝鮮が、核実験をするのではないかと、事前にわかるのは、人工衛星での偵察の結果なのです。なぜ、こういう国防上の遅れが出てしまったのか、これらを作り出すのは、科学技術の力なわけだから、科学技術、そして、科学教育が遅れているからだ、という思考経緯をたどれば、理科教育の改善に行き着くことは、ごく自然なことでもあります。

 

Q なぜ理科など勉強する必要があるのか気になっていたが、話し合いで決まったということだが、その経過をもって知りたい

A アカデミックな学問領域の分け方は、それほど昔から定まっていたわけではなく、中世には、学問は神学が上位を占めていて、ギリシャ時代には、かなり科学的な研究姿勢があった天文学なども、神学に追随するようなものになっていたのは、コペルニクスやガリレオのことを考えれば、わかります。

デカルトやニュートンが現れて、科学的な思考や研究法が次第に発展して、産業革命での工業の発達、フランス革命に発する国民国家における軍隊の進展などが、科学技術の研究やその結果としての生産が、19世紀を通じて展開し、それが大学にも及ぶようになります。そして、19世紀末に義務教育がほぼ確立し、中等学校への進学者も少しずつ多くなると、中等学校の教育内容をどのようにするかが、授業でも説明したように、大きな社会的な問題となったのです。そして、大規模が検討がアメリカで行われたのですが、そういうときには、今でもそうですが、アカデミックな人材がその議論を主導します。その結果として、19世紀を通じて形成されてきた、学問分野の分化に応じた科目が設定されたというわけです。基本的に、議論は、そうしたアカデミックな学問領域で区分する派と、職業教育を重視し、卒業後の進路に応じた分野、商業、機械、農業等々で分けるという主張が、対立します。双方がそれぞれ根拠がある主張をするし、また、生徒や親の要望も両方あるわけですから、多くの国で、アカデミックな科目が中心を占めて、職業科目が選択できるようになるというように、構成されていった国がほとんどでしょう。

 

Q 自発的に学んでいた時代と義務化された現在とで、学力の差はあったのか。

A そのような研究はないと思いますが、当然、自発的に学んでいた時代のが、平均的には、学力は高かったでしょう。しかし、その時代には、学ぶことができないけれども、実は潜在的には高い能力をもっていたという子どもたちも少なからずいたと思います。

 

Q PISAの学力テストで、教育のあり方を変えてしまう日本では、教育に対しての軸があまりにぶれているのではないか。日本は、どのような教育を勧めていくのか。

A PISAの結果で教育のあり方を大きく変えた国は、日本だけというより、日本よりも大きな変化を実施した国もあります。ドイツ、デンマークなどで、スウェーデンもかなり変化をさせています。当初それほど悪いと評価していなかったオランダやフランスなども、近年の結果に危機感をもっているようです。教育の軸がぶれていると考えるかどうかは、人によって異なると思いますが、日本は、むしろ悪い意味でぶれていないともいえます。もう「立身出世主義」を教育に求めるのは、かなり時代的にずれていると思われますが、その意識はまだまだ強く残っているのは、ゆとり教育の後退によっても示されています。

 

Q 移民は学校にいかないというのは、金銭面、言語面でいけないという人が多いのではないか。教育を受けることで、労働や生活にプラスの面が多いと感じる。そういう策を実施することは難しいのか。

A 「いけない人が多い」というのは、確かにそうだと思います。もともと、移民立国のアメリカや、戦後多く移民を受け入れてきたヨーロッパと日本は大分違いますが、移民を受け入れるプラスとマイナスの両方があり、それは、受け入れ状態で異なってきます。この問題は、今後度々触れることになります。

 

Q アメリカの教育が日本にどのような影響を与えているのか気になった。

A アメリカの教育で、日本に大きく影響した側面と、あまり影響しなかった側面があるといえます。

戦後改革は、アメリカの教育システムをかなり取り入れているし、コモンスクールのシステム、男女共学、学力主義と経験主義とのシーソーゲームのような交代などが、影響の強い側面でしょう。取り入れたのに、実際には機能していないのが教育委員会制度です。

また、影響が少ないのは、地方分権的な行政、明白な分離政策、あるいは差別的な制度などでしょう。入試システムなどは、かなり違うといえます。