国際教育論コメント 2016.6.6
Q 森の幼稚園の教育的効果はわかったが、それは幼稚園にいるときのことで、ある程度大きくなれば、差はなくなるのではないか。(同趣旨の疑問もうひとつあり。)
A 教育というのは、もともとそういうものなので、森の幼稚園で学んだ子どもが、小学校ではとても酷い先生に習って、力を延ばすことができず、通常の幼稚園で学んだ子どもが、そのときには、森の幼稚園の子どもにいろいろな点で劣っていたとしても、小学校の先生がとても素晴らしい実践をしていて、力を伸ばしてくれた。その結果として、逆転してしまう、というようなことは、いくらでもあるでしょう。
だから、森の幼稚園には意味がないとはいえません。
Q デンマークもPISAの原価をうけて、日本と同じような方針をとったようだが、その後は改善されたのか。
A デンマークの成績は以下のように推移しています。
2000 03
06 09 12
読解力 16 19
19 24 25
数学
12 15 15 19
22
科学
22 31 24 26
27
参加国は毎回ふえており、当初の倍になっているために、順位は落ちています。しかし、全体としての位置が上昇したとはいいがたいようです。
Q デンマークは生涯学習の国ということはわかったが、何故、労働時間が短いのに、遊びにいったりしないのか。趣味として学んでいるということか。
う みなさんの勉強というイメージが、座って本を読み、問題を解くというものだから、そうした印象をもつのではないでしょうか。勉強とは本来は、自分の興味のあることを深く実践し、そこでわからないことを、様々な方法で知識として学び、それを実践に活かしていくという行動のことだといえます。そういう意味では、遊びと勉強は決して別々のものではないのです。
Q 完全に森の幼稚園を作ることは難しくても、国内に森をつくる等の疑似森の幼稚園を行っているようなところはないのか。
A 森のないところに、ビオトープなる施設をつくって、少しでも自然を味わう活動をさせたいという、教育関係者の努力はあると思いますが、もっと大胆に森を増設する活動などがないのだろうか、と思います。また、東京23区は無理だとしても、その周辺では、まだまだ森は残っているのですが、開発でどんどん削られていくという事実があります。そうした開発をやめさせることでも、森の幼稚園は可能になると思います。
Q 森の幼稚園のデメリットはないのか。
A メリットやデメリットは、それぞれの価値観によって異なってくるので、あるメリットが他の人にとっては、デメリットと感じられることがあります。森の幼稚園は、そうでないところも当然そうですが、選択して入るので、森の幼稚園でやっていることをメリットと感じている人が、子どもを入園させるわけで、入園者にとっては、デメリットはほとんどないと感じられているのではないでしょうか。小さいころから、文字や計算を習得させたい、音楽に触れさせたい、などということを期待している人にとっては、森の幼稚園のやり方は、デメリットに感じられるのではないでしょうか。
Q 日本で森の幼稚園をつくるために、基準を変えようという運動はあったのか。
A 森の幼稚園を作ろうとしているひとたちは、当然そうした運動をしているはずです。
Q 日本のYMCAの活動は、森の幼稚園に似ている面があると思ったが、森の幼稚園をモデルにしているのだろうか。
A 青年運動は、様々な種類がありますが、欧米では、19世紀半ばにイギリスで、産業革命のあとの労働者たちの状況を改善する運動として、キリスト教徒たちのYMCAやYWCAが生まれ、19世紀末から20世紀にかけて、世紀末の雰囲気に対抗して、自然のなかで人間性を取り戻すというような意味で、ドイツのワンダーフォーゲル、イギリスのボーイスカウト、ガールスカウトなどの運動が生まれて、現在世界各国で引き継がれています。日本にもあまり時期が遅れることなく、はいってきています。アメリカではキャンプ活動、ソ連でピオネールなどの活動が盛んに行われるようにもなりました。
特にワンダーフォーゲル以下の青年運動は、自然との関わりが特徴で、そうした運動の文化的継承として、森の幼稚園を考えることは、不可能ではないと思いますが、共通の感性を基礎にしているというレベルで、明確な影響を感じてのことであるかは、よくわかりません。
Q 日本に森の幼稚園はどのくらいあるのか。
A ほとんどが無認可なので、正確な数はわかりません。10程度はあるのではないでしょうか。