国際教育論 2016.4.18

Q1 日本とアメリカではどちらの方が貧困層が多いのか。

A 貧困とは何かということも大きな問題になるかと思いますが、一般的にはアメリカの方が多いと考えられると思います。ひとつは、富の偏在、経済的な格差が、アメリカのほうが、かなり大きいことは統計的に示されています。また、黒人差別のような明確な差別がいまだに残っているし、「福祉政策」を明確に否定する思想が、社会のなかに強くある(例えばtea party)ことを考えれば、やはり、アメリカのほうが貧困が多いといえるでしょう。しかし、日本もかつての「中産階級」が多いと言われた時代(1980年代まで)から、新自由主義政策がとられるようになって、格差がかなり大きくなっていますから、日本でも貧困問題が深刻になっていることも事実です。

 

Q2 アメリカの大学の学力がそこまで高くないということが意外だった。

A 「平均的な学力が高くない」というのは、大学のことではなく、初等中等教育のことで、大学になると、アメリカは平均的にかなり高くなると思います。そして、かなり勉強しないと卒業するのが難しいのは、日本とは大きく異なります。

 

Q3 アメリカには、だいたい年収で済む場所が固まっているようだが、そこには学校の教育的格差も生まれているのだろうか。

A 当然、地域の経済格差が、教育格差にかなりの程度反映すると考えられます。貧困層が多く住む都市部のダウンタウンでは、生徒の多くが貧困層ですから、家庭の教育的雰囲気は低いし、また、犯罪も多いから学校も荒れる確率が高くなります。日本では多くのことが、「設置基準」や「法令」で国家として決められていますが、アメリカは教育委員会が基本的なことを決めますから、貧しい地域では、当然「教育財政」も貧困であり、教師の条件も悪くなりますから、優秀なひとたちは、もっと条件のいい地域を目指します。

 経済的なゆとりのある人たちが住む地域では、家庭の教育的雰囲気も高くなり、教育のために支出も多くするでしょう。税収入もたくさんあるので、学校の条件もよくなります。

 こうした状況にあるために、人々は自分の経済的力に応じてではありますが、できるだけ自分の考えで、いいと思う地域に住む努力をするのだと思います。

 

Q4 アメリカはお金もちの国というイメージは、今は薄くなったように思う。南米の移民があるからか?

A 南米からの移民も影響をあたえていると思います。全体としては、格差が広がっていることが大きいと思われます。

 

Q5 日本にはミランダ原則のようなものはないのだろうか。日本の学力が年々低下しているというが、どのくらいか。

A ミランダ原則そのものは、日本でもほぼ実施されていると思います。しかし、逮捕時に必ず告知されるということはないようだし、また、弁護士をつけることの意味が異なると考えられます。アメリカでは、弁護士をつけることができるというのは、取り調べ段階からつけ、かつ取り調べに同席できるのですが、日本では、弁護士が活動する前に、どんどん取り調べが進行してしまうし、また、最初の取り調べ期間は、弁護士と話し合うこともかなり制限されます。ここが大きな違いでしょう。

 日本の学力が年々低下しているということは、あまりないと思います。PISAの成績が落ちたというのも、参加数がかなり増えたので、順位が落ちたという側面があると思いますが、理解の程度のグループでも、そんなに落ちているわけではなく、むしろ、最近のPISAではある程度上昇しています。

 

Q6 どこかで、資本主義がアメリカで採用された背景には、富裕層が貧困層に利益を分け与えるであろうと信じられていたからだと聞いたことがあるが、本当なのだろうか。

A そういう話は聞いたことがないので、教えてください。

 

Q7 アメリカ全体の進学率はどのくらいか。貧しい、学力が低いという側面ももっているということで、決して高くはないのだろうか。

A 進学率という数値は、非常に提示が難しい数値で、統計はいろいろとありますが、国による違いを意識しないと、誤解してしまいます。例えば、ユネスコがでしているある統計によれば、(日本での短大にあたる学校を含めた数値ですが)

 1位 ギリシャ 110

 2位 韓国    95

 5位 アメリカ  88

  41  日本           62

となっています。これは、在籍数を18歳人口で割った数値と説明されています。欧米では、社会人の入学が多いので、高校卒業して、大学に進学する、という日本のイメージで考えると誤解してしまいます。また、韓国は元来非常に進学率の高い国ですが、おそらく大学生の途中で徴兵され、終了後復学するひとも多いと考えられるので、その分多くなっているのでしょう。

 アメリカの場合、入学がやさしいけれども、卒業は難しいので、かなりの部分が脱落します。したがって、進学=卒業に近い日本のイメージで、アメリカの大学修了数を考えてはいけません。  

 

Q8 ミランダ原則を日本に適用するのは、懸念がある。真犯人の自供をとることが難しくなり、処罰ができなくなってしまう可能性があるからだ。弁護士がどれだけ取り調べに介入できるかが、ポイントとなってくると考える。

A 自供という点では、近代的な刑法の考えは逆です。真犯人を特定するためには、自白ではなく、客観的な証拠によるべきものであるというものです。自白を中心にすると、どうしても拷問的な取り調べになり、犯人ではない人を犯人としてしまう可能性が高くなることは、歴史的に明らかになっています。事実、日本でも冤罪は多くあるとされています。自白を重視すればするほど、客観的な証拠をとろうとする姿勢が弱くなり、冤罪の可能性が高くなるのです。それを防ぐために、取り調べの透明化が主張されているわけですが、録音や録画があったとしても、検察に都合のよい部分だけ提出されるのでは、むしろ冤罪を生む危険性があるし、すべてが弁護側に提供されるとしても、20日を超える映像を、弁護士がすべてチェックするかどうかは、かなり疑問です。やはり、弁護士が原則すべての取り調べに同席するというのが、冤罪を防ぐためには最も有効でしょう。

 もっとも、真犯人と逮捕の必要性と冤罪を避ける必要性とを、どちらが重要であるかは、多様な意見があるかも知れません。

 

Q9 他国では留学生から高い授業料をとるが、日本では逆なのは何故なのか。そうしないと生徒がこないのか。

A アメリカでは、より高い授業料をとっても、留学生が押し寄せるのに、日本では、むしろ逆に奨学金などの措置で優遇しないとこないからと考えるのが、最も自然です。国際的に見れば、授業が英語で行われているアメリカが、卒業後のキャリア形成に有利であることは間違いなく、逆に日本の大学はほとんどが日本語で授業が行われていますから、負担も大きく、留学生にとっての利点があまりないからだといえると思います。