2015.4.27
1 ホレース・マンはどのように上流階級のひとたちを説得したのか。独立後のアメリカの学校教育において、補助金はいくらくらいでていたのか。
 特に企業経営層にとっては、子どもの教育は、自分の子どもは高い教育費を私的に払っているのに、更に他人の子どもたちの教育費を税金で負担するのは嫌だ、子どもを安い労賃で働かせることができるのに、就学させるとその期間労働させることができないし、卒業後労賃をあげる必要がでてきて、経営上マイナスである、というふたつのことにつきると思います。
 それに対して、子どもの就学が、労働力の質を高めることになり、経営効率が向上すること、教育レベルがあがると治安がよくなり、治安維持のための社会的費用が軽減され、結局、税金負担は増えないこと等を主に説得していました。

て2 アメリカの憲法には、教育に関する条項がないということだが、他に法律で定められているものなのか。
 アメリカの憲法にないというのは、「合衆国」憲法にはないという意味で、それは教育は州の管轄事項になっているから、州の憲法にあるということです。ちなみに、ニューヨーク州憲法には、次のような教育条項があります。公立学校は無償で、すべての州の子どもが教育を受けることができること、州立大学を設置すること、公立学校での宗派教育の禁止等が規定されています。

ARTICLE XI

Education

[Common schools]

Section 1.  The legislature shall provide for the maintenance and support of a system of free common schools, wherein all the children of this state may be educated. (Formerly 1 of Art. 9. Renumbered by Constitutional Convention of 1938 and approved by vote of the people November 8, 1938.)

[Regents of the University]

2. The corporation created in the year one thousand seven hundred eighty-four, under the name of The Regents of the University of the State of New York, is hereby continued under the name of The University of the State of New York. It shall be governed and its corporate powers, which may be increased, modified or diminished by the legislature, shall be exercised by not less than nine regents. (Formerly 2 of Art. 9. Renumbered and amended by Constitutional Convention of 1938 and approved by vote of the people November 8, 1938.)

[Use of public property or money in aid of denominational schools prohibited; transportation of children authorized]

3. Neither the state nor any subdivision thereof, shall use its property or credit or any public money, or authorize or permit either to be used, directly or indirectly, in aid or maintenance, other than for examination or inspection, of any school or institution of learning wholly or in part under the control or direction of any religious denomination, or in which any denominational tenet or doctrine is taught, but the legislature may provide for the transportation of children to and from any school or institution of learning. (Formerly 4 of Art. 9. Renumbered and amended by Constitutional Convention of 1938 and approved by vote of the people November 8, 1938. Formerly 4, renumbered 3 without change by amendment approved by vote of the people November 6, 1962; former 4 repealed by same amendment.)

3 フランクリンは、倫理の教科書に出てくるような人なのか。
 フランクリンは、アメリカの理想的人物の一人とされており、その生活信条が有名なので(まあ、凡人にはあまりに禁欲的で節制的なので守れそうにないものですが)倫理の教科書に出てくるような人物でしょう。更に、アメリカ独立戦争で大きな役割を果たしたので、歴史的にも重要な人物です。

4 アメリカの上流階級の人々は、州によって偏りがあると思われるが、それにともなって私立学校も州によって設置数が増えるのか。
 私立の学校は、地域と無関係なので、州の状況は無関係だと思います。通常田園地帯にあるので、むしろまわりは人口が少ないところにあります。全寮制が前提なので、親がどこに住んでいるかは関係ありません。

5 奴隷制度と教育についてもっと知りたい。
 次の主な主題です。

6 アメリカは自立国家であり、よい学校に行きたければ家庭ごとになんとかすると聞いたが、結果的に学力格差が広まっているのに、それでも国家が自立国家を突き通しているのは何故なのか。
 「自立国家」というのが、個々人の自由を最大限保障して、国家は個人の生活には介入しない、自己責任を原理とするという意味であれば、一貫して、アメリカの基本原理であったかというと、多少の変化はあったと思います。
 宗教やイデオロギー対決などによる「思想統制」(マッカーシズム)や、ケインズ主義、少年法等の保護主義、メーガン法などの拘束等々。
 しかし、現在「新自由主義」が大きな勢力となっていて、これは通常ケインズ主義への批判から出てきたとされており、このなかで、自己責任を基調とする政策が復活してきたのだと見られると思います。もちろん、陪審員制度、公選制教育委員会等々の草の根民主主義的な伝統はずっと続いています。こうした草の根民主主義は、個人の自己責任というよりは、地域主体の志向性と考えられます。
 アメリカの構造は、個人か国家かという単純な括りではなく、もっと多重な社会構造として把握する必要があると思います。

7 日本とアメリカの教育の違いは、国土や歴史が違うからだと思っていたが、学校設置義務が先だということで見方が変わった。
 義務教育制度は、だいたい3つの理由で成立します。
(1)傭兵から国民兵への移行、徴兵制の施行により、国民全員に忠誠心や一定の学力が必要との政策
(2)産業革命により質の高い労働者を求める。(工場法制定から出発)
(3)人権思想により、平等な教育を求める
 (2)と(3)は、通常まず学校が必要となるので、学校設置義務の発想になります。(2)は工場労働している子どもたちのみに関係しているし、(3)はそもそも、国民の義務として発想しないからです。これに対して、(1)は国民全員を国家の兵隊として育成することが目的ですから、就学義務がまず必要であるという政策になります。(1)の代表がプロイセンと日本であり、その他の先進国は(2)と(3)が主になります。

8 アメリカ国家は非常に先進的で学力もみんな高いイメージをもっていたが、過去の歴史や現在の教育格差の話を聞き、日本が比較的平等な教育が行われていたのではないかと思った。
 全国的な平均学力が低いのは、アメリカが移民国家だという理由が最も大きいと思います。PISAで高得点をとることが難しいと判断される要因はふたつあって、「人口が多いこと」「移民が多いこと」のふたつです。PISAのベスト点には、このふたつをもっている国が入っていたことはなく、人口も日本が最大で、他は小国家がほとんどです。移民が多い国家もほとんど入っていません。
 人口が多くなると、どうしても格差も広がること、移民が多いと言葉の関係で、十分に学校教育の内容を理解できる人たちが出てくることが理由です。アメリカは、このふたつの要因を両方とももっている国なので、国際学力テストはどうしても低くなってしまいます。しかし、当初よりはあがってきています。