国際教育論 2015.4.20
1 何故、アメリカでは進化論ではなく、創造説が教えられていたのか。進化論が忌み嫌われていたのか。
 信仰心が厚いキリスト教徒は、聖書の教えを信じている、進化論は聖書の教えに反するという理由でしょう。
 アメリカには、16世紀17世紀にヨーロッパから移住してきた人たちのなかに、移住してきた当時の社会を理想として、今での当時の生活様式を維持している人たちがいます。代表的には、アーミッシュと言われる人たちで、現在でも移動は馬車、電機を使っていないかどうかは、厳密にわかりませんが、日本でいえば、江戸時代の生活スタイルを守っているわけです。そういう人たちが、普通に共同体の中で生活し、社会に出ても特に差別されるわけでもなく生活しています。そういう社会であることを理解すれば、聖書の教えを純粋に信じている人たちがいることは、頭の中では理解できるのではないでしょうか。もちろん、政治的に、それを利用しようとしている人たちがいることも間違いないでしょう。

2 反宗教改革の弾圧から逃れる人たちは、何故アメリカに向かったのか。
 アメリカにはまだ開拓されていない土地がたくさんあり、活動の余地があると考えられたからだと思います。宗教弾圧するような政治もないことも大きな理由でしょう。アメリカだけではなく、自分の宗教を認めてくれる国に移住することも、もちろんありました。

3 何故神という非科学的存在を信じていられるのか。
 信じている人の理由はそれぞれ異なるので、こうだという理由を提示するのは難しい。また、全く信じていない私が、正確にいえるかどうかもわかりません。通常言われることを列挙すると
・ある日、実際に神が目の前に現れて、自分に語りかけたという体験がある。(有名人のなかに、けっこういる。パウロ、矢内原忠雄)
・世の中には、科学で証明できないことが多数あり、背後に万物を動かしている力を想定するほうが、理解できる、と考える人たちがいる。また、科学が進歩すると、宇宙の秩序の見事さに感動し、これこそ神の存在を表していると感じる科学者もいる。(ニュートン)
・神がいると信じれば、自分の幸福感が増幅するので、「信じる」という選択をする。
・しつけや教育のなかで、神が存在するということを、教えられてきたので、素直にそれを信じている。
 他にもいろいろあるでしょう。実際に信じているひとがいたら、丁寧に質問してみるといいと思います。

4 戦後復興で景気が一時的によくなるのは、何故か。
 20世紀の代表的な経済学者であったケインズの理論を、政治に適用したのが、「公共事業」という政策です。
 通常の経済活動は、経営者が労働者を雇い、製品をつくり、賃金を払う。労働者は、賃金で生活に必要なものを購入し、それが企業の利益となって、更に次の生産活動を行う。こうした状況がなんらかの理由で崩れ、失業が増えると、失業者はものを購入することができず、だから製品が売れなくなります。そうした状況が不況というわけです。そのとき、早く不況を脱するために、政府は、税金を使って、公共事業をおこし、失業者を吸収して購買力を回復させ、その結果として、購買力を回復し、不況を脱する、というのが、ケインズの失業対策構想です。世界恐慌後、この方式を多くの国が行いました。日本の政治は、現在でも基本的にケインズ政策を部分的に維持しています。(このケインズ政策を批判して、政府はそうした介入をあまりすべきではないという論を提起し、先進国で行われている考えが新自由主義です。)
 では、どこからその費用をもってくるのか。それは、政府は貨幣発行権限をもっているから、お金を印刷すればよいということです。そのままであれば、インフレが置きますが、その事業によって景気が回復し、税金として回収できれば、インフレという弊害は起きないという理屈になっています。しかし、戦後復興で、大規模なインフレがおきてきたのも歴史的事実で、それは、また別の要因があります。(必要ならば、更に質問してください。)

5 アメリカの大学はレベルが高いので、全体的にアメリカの学力は高いと思っていたが、格差のある理由、日本では格差が少ない理由は何か。宗教的なことも理由なのか。
 アメリカの学力格差が何故生じているかは、基本的には、社会・経済的な格差の結果であり、社会・経済的な格差が極めて大きいからだと思います。あとの授業で扱いますが、ヘッドスタート計画などで、格差縮小の政策的努力はなされており、その改善結果もあるかと思いますが、やはり、経済格差そのものが拡大していますから、学力にも影響しているでしょう。それから、今後の授業で扱うことになると思いますが、アメリカの初等教育・中等教育は公立学校は教師の水準が低いと言われており、その改善のために様々な試みがなされています。その成果が少しずつ現れていますが、アメリカでは伝統的に、教師たちへの社会的評価はそれほど高いものではありません。

6 創造説を教えたいので、学校にいかせないで通信教育をする人がいるとTVでみましたが、それが学力平均の低下につながっているのか。
 アメリカでは、学校にいかず家庭で教育をすることを認めるホームスクールという制度が正式にありますが、その利用者の多くは宗教的理由で、学校教育の内容に反対である人たちと言われています。その人たちは、通信教育も利用していると思われます。
 それが学力低下につながっているという点では、少なくとも「宗教的理由」が低下につながっているという結論は難しいのではないでしょうか。宗教的信念をもつちち、学力の高いひとたちはいくらでもいますので。しかし、学校にいかせないわけですから、それを十分に補充できる家庭は少ないのが実情で、ホームスクールの8割はあまり勉強していないと言われています。(もちろん、学校教育より大きな成果を得ている人もいるでしょう。)そういう人たちは、当然学力は低いと考えられます。

7 銃をもっているのは、民間人が多いと聞きましたが、軍隊も圧倒的な軍事力をもっていると思いますが。
 銃をどのように規定するかでしょうが、少なくとも先進国の軍隊は、銃といっても特殊なもので、数も少ないと思われます。通常、銃とは、ピストルと呼ばれるものがイメージされ、それは民間人とか、警察官が所有しているものです。アメリカでは、民間人の多くが複数の銃をもっていますので、数的には、民間人が多いと思います。現在の軍隊の主力兵器は、銃ではなく、ミサイルです。

8 教育と宗教は別だと思っていた。
 教育の歴史をみれば、教育を担っていたのは、ごく最近まで宗教団体であり、今でも宗教団体が担う学校は、たくさんあるのが現実です。だから、むしろ、教育と宗教は密接不可分であると考えるほうが実態にあっています。
 ただ、現代では、教育は科学を教えるほうが重要であると考える人のほうが多いので、宗教の意味範囲を狭めて、教育と関わらせているというべきでしょう。
 出発当初のヨーロッパの大学は多くが、神学・哲学・医学が構成要素でした。哲学のなかに「科学」があったのです。宗教がいかに大きな位置を占めていたかがわかります。ヘーゲルの哲学は、精神哲学と科学哲学、歴史哲学、法哲学などのように分かれていました。
 市民革命がおきて、国家と宗教が分離され、(信教の自由)教育は「世俗性」が基本となったこと、宗教そのものの力が弱くなったことなどによって、教育内容が、科学を基礎にするようになったわけですが、教育に道徳的なものを強く求める人たちにとっては、宗教が重要な部分を占めるべきだと考えています。ただ、さすがに、自然科学的内容に、宗教をいれろ、というのは、先進国ではアメリカの一部の人以外にはいないと思います。

9 日本は保険制度など、国全体で個人を守ろうとするが、アメリカは自分は自分で守る考え方をする。アメリカでは、貧富の差を国ではなく、自分の責任とする認識が強いのか、アメリカの国家対策とは何か。
 日本の保険制度が今後も維持されるかどうかは、人々の関わりによって左右されるのではないでしょうか。TPPは明らかに、日本の皆保険制度を崩そうとするものといえます。政府与党は、TPPでも皆保険制度を維持すると公約していますが、今進んでいる交渉では、触れられることがないので、公約を守る方向で議論しているかどうか不明なのです。もちろん、皆保険制度がいいかどうかは、人によって考えが違うと思います。
 確かに日本では、皆保険制度があり(といっても、保険をきられている人も実はたくさんいるのですが)、全体で守るシステムになっていますが、アメリカは、自己責任原則になっています。オバマ大統領が、医療改革をめざしましたが、反対にあって、中途半端なものになってしまいました。結局、アメリカの政策を決めている人たちは、お金持ちたちなので、高い保険金を払って、民間の医療保険に入ることができるので、皆保険がなくても困らないのです。単純にいえば、自分たちは、りっぱにやっているのだから、他人の分の保険料金を税金で払うのは嫌だということです。

10 第二次大戦で、京都・奈良を空襲しなかったのは、古い建造物に憧れを抱いていたのかと思ったが。
 現代の戦争は、国際的評判をそれなりに気にします。どんなに評判が悪くても実行される戦争もあるかと思いますが。ナチスですら、オーストリアを併合したときに、ユダヤ人であるフロイトを強制収容所に送るのを、そんなことをしたら国際的非難が大きいというので、フロイトの亡命を例外的に認めています。
 アメリカが、京都や奈良を爆撃しなかったのは、その歴史的遺産を破壊しないようにという配慮からですが、それが、歴史的な憧れの感情であるか、あるいは、そんなことをしたら巻き起こる国際的非難を恐れてのことなのか、決めた当事者ですら、実はあいまいだったのではないかと思います。協議して複数の人間が決定したでしょうから、人によって思惑が異なります。
 今でいうと、イスラム国が、古い西アジアの遺跡を破壊しているという映像を流していますが、あれは、これまでとは異なる意識を感じさせますね。
 まず、実際には破壊しておらず、模造品の破壊をしていると言われています。実際の遺跡は、売買の対象にして、そこから外貨を得ている。(破壊していないという理由も、遺跡で商売してきたイスラム国が、破壊するはずがないという推測も含んでいます。)
 また、模造品にせよ、破壊している映像を国際的に流すのは、自分たちを苦しめてきた者は、過去であっても、断固として破壊するのだ、という意思表示をすることによって、それに共感するひとたちがいるということを示しています。彼らは、本当に戦っているんだという意識で肯定的にみるひとたちがいるわけです。実際には、破壊していないのだから、非難も強くならないだろうし、逆に、破壊を支持するひとたちから共感されるだろうという思惑があると考えられます。

11 大学のランキングはどのように決まるのか。
 大学ランキングは、それぞれの調査機関独自の方法があるかと思いますし、それぞれの機関の説明を読めばわかりますが、一般的には、一定の権威ある雑誌への投稿数や投稿論文を他の研究者がどれだけ引用しているかによってはかります。引用される数の多いほど優れた論文であり、そういう論文を書いた教授が多いところが、優れた大学であるという評価基準です。
 したがって、そうした国際的に言語(英語)が統一され、共通の基盤で評価ができる理系の質によって、大学ランキングはなされます。文系学部はほとんど評価の対象になっていない場合が多いと思います。

12 黒人差別だけではなく、日本人などの黄色人種差別もあるのか。
 黒人差別と教育について扱う部分でできるだけ詳しく説明します。
 アジア系の場合には、黒人差別とは異なるでしょうが、あるという人もいます。中産階級以上の白人は、多くが背が高く、りっぱな体格をしています。金髪なども多いし、見栄えがいい人が多いわけですし、日本人でそれに憧れる人も少なくありません。逆に彼らからアジア系の人をみると、いかにも貧相な感じに受け取られることが多いようで、そういう感情が露骨にできる、差別意識を感じるのではないでしょうか。ただ、一般的にアジア系は勤勉で成績がいいことが多いので、黒人差別よりは大分緩和されていると思います。