教育行政学コメント 2019.6.13

Q 道徳の教科化のメリットは何か

A 大きな論争点なので、人によってまったく考えが違うのが実態です。教科化そのものへの反対は、今でも大きなものがあります。その反対理由の最大のものは、成績を付けるものではないという考えでしょう。

 他方、教科化を進めたい人たちの考える最大のメリットは、道徳の時間を確保させられるということにあるように思われます。たぶん、教科ではない道徳は、やらないことも多かったのではないでしょうか。教科であれば、年間に何時間授業をするという「法令」上の義務を課すことができます。逆に反対派からすれば、年間何十時間義務として行うことに意味を見いださない、そうした形式主義こそが、道徳を教えることに矛盾するという考えでしょう。

 

Q 道徳を入試のテストとして出す国はあるか

A 私の知るかぎりではありません。ただし、戦前の日本では、中学進学の際に、修身の成績が重視されていました。

 

Q 日本の教科書の内容が薄いのは、文化の特徴によるものか。文化の違いで教科書の内容は異なるのか。

A いろいろな理由があると思います。まず、小学校、中学校、高校で同じ内容を、少しずつ高度にしながら、繰り返し学んでいく方法をとっていること。欧米では、小学校は古代、中学校は中世、高校で近代というようなやり方で学ぶことが多いのですが、その場合、教科書記述は断然詳しくなります。また、教科書検定制度も影響しているでしょう。特に近年は、ゆとり教育の影響が大きかったので、教科書内容が薄くなったと考えられます。また、教科書そのものの考え方、位置づけもあります。参考文献の中心と位置づけるか、教科書を理解し、憶える対象と考えるかによります。

 

Q 人工知能によって教師はどうなるのか。道徳の授業は人間でなければできないと思うが。

A どうなるかは、誰にもわかりません。各自考えましょう。教師はどうなるかという問いも重要ですが、教師は人工知能をどう利用するかという問いも重要です。

 

Q 学力テストで悪い点数をとると留年と言われたことがあるが。

A 全国学力テストのことであれば、教師による単なる「脅し」だったといえます。通常の「定期テスト」のことであれば、間違いではないでしょう。

 

Q PISAの影響でゆとり教育がなくなったということだが、英語の教科化もPISAの影響か。

A 英語を小学校に導入するべきという動きは、国際化の影響なので、PISAとの関連はうすいと思います。もちろん、そういう意識の人もいるでしょうが、ただPISAは学国語のテストは含まれていません。

 

Q 教科書のレベルが他の国に比べると低いということだが、教育のレベルと教科書のレベルは比例するのか。

A もちろん、単純に比例することはないでしょう。また、学校教育のレベルと教育・学力のレベルが単純に比例するものでもありません。家庭学習や塾などの影響もたぶんにあります。しかし、長い目でみれば、教科書の質が、学んだ人の学習の質に影響することは間違いないでしょう。教科書がつまらなければ、使わなくなったら再びみることはないでしょうが、教科書が興味深いものであれば、大人になってからも読み直すかも知れません。また、もっと深く知りたいと思って、より進んだ書物を求める意欲が喚起されることもあるでしょう。

 

Q 学習指導要領の変化で、教科書のレベルが変わらないのかと不思議だった。

A 変わるといえます。1960年代は、学習指導要領がかなり学力中心で、学習量が多く設定されていました。そのために、教科書は非常に厚く、内容も高度だったのです。しかし、そのために「落ちこぼれ」問題が発生し、少しずつゆとり教育が拡大していくなかで、教科書が薄くなり、イラストや写真が多くなっていきました。

 

Q プログラミング教育は義務化されていないというが、やるところとやらないところがでてもよいのか。

A 新しい学習指導要領には、「 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」とあるので、義務化されると解釈されます。

 

Q 組体操を文科省が禁止できないのか。

A これまでの学習指導要領の形式では、することを掲げる形になっており、やってはいけないことを掲げるようにはなっていないので、学習指導要領上で禁止することは、考えにくいといえます。通達などで、やるべきではないということを教育委員会に伝えることは可能でしょうが、それでも、文科省の権限は、「指導助言」などで禁止するものではありません。

 

Q 学習指導要領の改訂はなぜ10年ごとなのか。

A 明確な理由はわかりませんが、教育内容は、社会や科学技術の発展にそって改訂していくという原則があるでしょうから、10年くらいで明確な社会や科学技術の進展があるという前提があるのだと考えられます。

 

Q 小学校の英語教科化で、教師の対策はあるのか。

A 基本は、これからの教師は、大学時代に英語教育について学ぶことと、既に在籍している教師については、研修をして向上を図ることが行われています。今のところ、英語教師を専科として導入する計画が明示されてはいません。

 

Q 学力テストがよいと、その学校の教師にいいことがあるのか。

A 学力テストは、学校単位の相対的位置を示す成績は開示されないので、その学校の教師にいいことは、明確にはないでしょう。県単位の成績は公表されるので、むしろ、悪いときに、教育委員会からの叱咤激励、締めつけがあるという、むしろ悪いことが目立つと思います。

 

Q 学力テストでなぜ競争する必要があるのか。

A 地域の評判を気にするということだと思いますが、1960年代に、香川県と愛媛県が争ったのは、まだ中卒の集団就職がさかんに行われていた時代で、香川と愛媛は、中卒で働くひとたちが、大坂にいきました。その際、学力テストの成績がよいと、就職に有利だという意識で競争したと言われています。

 

Q 教科担任制はいつ導入されるか。デメリットは何か。

A 5,6年だけ教科担任制にしようという案が、与党によって検討されているという報道がありましたが、コンセンサスには至っていません。小学校の教科担任制は、むかしから議論はあります。それに対して、小学校では、一人の教師が全体の責任をもつほうがよいという伝統的な考えで、賛同をえられてきませんでした。ただ、英語がはいってくると、さすがに多くの小学校教師には負担が大きいので、英語があり、課題も高度になってくる高学年は教科担任にしようという意見が出ているということです。伝統的な考えは、それに対しても向けられるでしょう。

 それに対して、5,6年は専門性が高いので、教科担任にしようという意見に対しては、下級学年は専門性が低いのかという反論がでてきます。教える内容は高度だが、教える対象の年齢が低いほど、また、簡単なことを教えることほど、教える技術は高くなければならないというのも、事実です。だから、5,6年だけ教科担任にするのは、原則的におかしいという批判があります。